anzuのブログ

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沈黙ーサイレンス




遠藤周作の原作「沈黙」を観てまいりました。
私が遠藤周作の本を読み始めたキッカケは1996年にテレビで
亡くなったニュースを知り、それまで遠藤周作を知らなかったんですが
どんな小説を書く人なんだろ?って興味本位で読み始めました。
96年だから、かれこれ20年程前だわね。
全ての本を読んだ訳ではないけど「海と毒薬」「深い河」
女の一生」「王妃マリーアントワネット」などなど。
そして「沈黙」と何の本から読んだかは忘れたけど周作さんの本は
一時期凄くハマりました。
どの本を読んでも読んだ後の疲労感と重たい気持ちに
なったのをよく覚えています。信仰とは何ぞや?
救いの為の信仰ではないのか?遠藤周作自身もキリスト教徒だったにも
関わらず、どうしてこうもパンチをくらわす様な救いの無い
小説ばかり書くのか・・・?持って生まれた場所で生まれ育ったから
その土地の信仰を持つのは分かるけど、自ら選んで
その宗教を信仰されてる方は救われる為という事もあると思う。
だけど、遠藤周作は自分の信ずるキリスト教に関しても厳しい。
本の中でも度々、神を冒涜するような言葉も出てくる。
だから彼はキリスト教信者の中で異端とも呼ばれていた。
実際、この沈黙もカトリック教会の禁書にも指定されている。

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遠藤周作の本は20年ほど前にハマって読み漁ったきり最近は
殆ど読んでいなかった。それを今回、なんと!あの
マーティン・スコセッシが監督で映画化されるってんじゃないか!
こりゃー観ない訳にいかないよね。
マーティン・スコセッシと言えば今でも多くの映画を撮ってるけど
一番強い印象で自分の中でもガツンとやられた作品
タクシードライバー」よね。PUNKSは皆好きでしょ?(笑)
しかも日本の小説を外国人の監督が撮るってんだからこれは
見物だわよね。原作の方は読み終わった後に疲労感や重たい気持ちに
なったけど、映画はどうだろうか?と期待いっぱいで観ました。

はい。観終わった感想。
原作を読んだ時の気持ちと同じ疲労感、暗い重たい気持ちになりやした。
スコセッシ監督は小説に忠実に映画化してくれました。
さすがです。

そして今回、この映画を観て私なりの答えが出たような気がしました。
勝手な思い違いかもしれないけど、遠藤周作の答えは
役に出てくるキチジローなんだと。
信仰は決して組織の中にあるのでは無く自分自身の心の中にあると。
話しの中で仏教もキリスト教も言わんとしてる事は一緒だろ?
と言うシーンがあって、日本人は自然と共に生きて太陽神を神と
崇めているからキリスト教のような偶像崇拝は根づかないんだ
と言うシーンも私自身が日本人なのだからなのかな。うん。うん。と
妙に納得をしてしまったわ。一つ一つの言葉に重みを感じました。


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それと今回、いい味出してたのが窪塚君ね。
くぼっちは良いね。舞台挨拶の時も

「東北の震災でたくさんの弱者が生まれたにも関わらず、
この国のみっともない政府の連中は俺たちの税金を他の国に
数兆円ばらまき自分の国の弱者には目も向けない!」

当たり前の事言ってるだけなんだけど、これ、日本の映画だったら
即刻干されちゃうんじゃないの?(笑)
これだけの知名度のある人が批判を恐れずこういった言葉を発するのは
いい事だね。そんな窪っちですが、昔からファンではあるんだけど
どうも彼の演技がね、あの喋りがHIP HOPなところ?
チンピラみたいな役だったらいいんだけど、演技の時もHIP HOP口調
なのがどうも好きじゃなかったんだけど、今回の映画は
凄く良い演技でした。ほぼ英語だったからってのもあったかも。

窪塚君のひょうひょうとした、どっちつかずの
平気で踏み絵は踏むわ、人を裏切るわ、嘘は付くわで酷い裏切り者
なんだけど、何度も何度も罪を問いにくるキチジローという
彼のしたたかさが凄く演技に表れていたと思いました。

布教活動に来た宣教師はナンであんな裏切り者にも神はお付きに
なるのか?と神の存在に疑問を呈する場面もありましたが
何度も踏み絵を踏もうが、人を裏切って金を貰おうが
誰にでも平等に信仰はあるって事を言いたかったのでしょうね。
布教に来た宣教師も日本政府の拷問に負けて最後は改宗して
しまうのだけど、心の中にはずっとキリスト教信者だった事が
最後のシーンを見ても分かると思います。

ちょっと話し変わっちゃうんだけど、水木しげるが鬼太郎の
漫画を描き始めた時、鬼太郎が優等生過ぎて嫌気がさしたので
ネズミ男と言うキャラクターを作ったと言っていた。
だけど、対極にあるネズミ男の言う言葉に時折、真実を掴むような
ハッとさせられる言動がある。沈黙の中でのキチジローは
そんなネズミ男のような立ち位置に思えてならなかった。

遠藤周作の本で一貫して出てくるのは苦しい状況にありながら
神はなぜ助けてくれないのか?
なぜ黙っているだけなのか?
神とは?
信仰とは?
未だに繰り返される宗教絡みの争いや、戦争は後を絶たない。
救いでもあり、平和を求める信仰がどうしてこうも
歪められてしまうのか?人はどうして間違った解釈をしてしまうのか?
キリスト教の布教も純粋な布教では無く完全に権力を誇示したいだけの
布教から始まってるから白人至上主義なんて言われちゃうん
だろうけど、純粋に信仰してる人の方がきっと多いのにね。
聖書も面白いです。ただ、妙な解釈されてしまうのも
分からなくもないような教えも多い気もします。
仏教の教えの方が非常に分かりやすい。

外国人が日本の原作のものを映画にすると、どこか違和感を
感じてしまう作品が多いけど、今回の沈黙はスコセッシ監督は
日本人以上に遠藤周作を理解してんじゃないか?ってぐらい
素晴らしかったです。日本人キャストも良かったです。
塚本晋也がふんどしで十字架に掛けられるシーンがあるんだけど、
上半身が骨と皮って感じでこの映画の為に相当痩せたんだろうなって
思いました。



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長崎に「遠藤周作文学館」があるそうです。
そこに建てられている沈黙の碑。そこにはこう記されている

「人間が こんなに哀しいのに 主よ 海があまりにも碧いのです」

真っ青な海の見える高台にこの碑があるそうです。
なんだかこの言葉、泣けてきますね。ここ、行ってみたいな。
キチジローは遠藤周作であり、遠藤周作はキチジロー自身であると
キチジローに自分を重ね合わせていたんではないかな???
って私なりの感想を持ちました。
20年前に原作を読んだ時はキチジローの事を卑怯なずる賢い奴だ
ぐらいにしか思わなかったんだけど、この作品の中で一番
人間らしい正直な行動をしていたのはキチジローであり
決して神を冒涜していた訳ではないと・・・原作を読んだ時の
気持ちとは別の感情が芽生えました。
一人一人観た感想はそれぞれだと思いますが、決して昔話では無く
現代の状況にも重ね合わせて色々と考えさせられる作品だと感じました。


おしまい。